事例02:元大手旅行会社 経営企画担当者のNPS導入事例
マーキットワン株式会社 シニアコンサルタント 北山幹夫(写真右)をゲストに迎え、マーキットワン株式会社 代表取締役社長 望月俊成(写真中央)とマーキットワン株式会社 加地雄大(写真左)がインタビュー形式でNPSの導入事例についてを聞いていきます。
インタビューについて
今回は、NPSを社内に定着させるためのシステム・フローづくりからお客様へのフィードバックまでをご紹介いたします。
<Guest> マーキットワン株式会社 シニアコンサルタント 北山 幹夫 大手旅行会社にて30年勤務。BtoCマーケティングを中心に経験を積む。会員数1,000万超の顧客ロイヤルティプログラムやNPSを中心とした顧客アンケートシステム、社内オペレーションシステム等の仕組化について中心的な役割を果たす。その後、沖縄県宮古島のリゾート運営会社にて、CXMの担当役員として「顧客の声」をベースとした改善活動を進め、口コミ評価を3点台→4.5点以上への大幅アップを実現。2020年7月よりマーキットワン株式会社に参画、シニアコンサルタントとして顧客体験価値向上に向けたコンサルティングに従事。 |
01:NPS導入のきっかけ
1.1 KPIを設定する際に、定量的な指標でなかなか良いものがなかった
—- まず初めに、NPS導入に取り組みだす前は、どんなお役職でどんな業務をされていたのでしょうか?
北山)当時は経営企画の担当をしており、旅行事業本部で旅行関係全般の統括を行っておりました。
—- NPSを導入することになったきっかけを教えてください。
事業の担当になった際に中長期の経営計画を立てることになり、その経営計画を立てる際に、コンサルティング会社として「Bain & Company」というNPSの発祥・元祖というような会社が入ってきました。そこでNPSを知り、導入することになったのがきっかけです。
—- NPSを導入された当時は、社内でどんな課題があったのでしょうか?
北山)経営計画を立てる際にそれぞれの項目でKPIを設定するのですが、特に個人の旅行に関する部分で、営業数値以外の測定する定量的な指標はなかなか良いものがありませんでした。その中でKPIのひとつとしてNPSを入れたらいいのではないかということになりました。
1.2 NPSを導入している日本企業はほぼなかった時代、
ゼロから勉強し、半年でNPSを用いた経営計画を作った
望月)その当時はまだNPSという言葉自体があまり知られてない時期だったと思うのですが、NPSを指標として掲げるのはかなり大変だったのではないでしょうか。
北山)そうですね。NPSっていう言葉自体、「Bain&Company」から聞くまで言葉くらいしか知らず定義などは誰も知らなかった状況でしたし、アメリカから始まった概念ですので、外資系の企業では入っていましたが、純粋な日本企業で導入しているところはほとんどありませんでした。ですので、事例を聞いたり調べるのにかなり時間がかかったり苦労したという思い出があります。
—- 北山さんご自身もゼロからNPSについて学ばれたということですが、どれくらいの期間勉強されたのでしょうか?
北山)経営計画を立てる際にそれぞれの項目でKPIを設定するのですが、特に個人の旅行に関する部分で、営業数値以外の測定する定量的な指標はなかなか良いものがありませんでした。その中でKPIのひとつとしてNPSを入れたらいいのではないかということになりました。
1.3 お堅い会社で、役員に対してNPS導入を
説得するのは大変でした
—- 大企業ですと、役員を説得する機会があったかと思うのですが、それは難航したのでしょうか?
北山)かなりお堅い企業だったので、やはり説得するのには時間がかかりました。もともとその会社ではお客様満足度調査を長らく実施しておりましたが、その結果が業績と結びついていないということがありました。そのため、新しいNPSという概念を入れてもどうなのかというご指摘がかなり多かったですね。ですから、概念自体の説明と手続き上の手間ひまはかなりかかった記憶があります。
02:NPS定着へのシステムづくり
2.1 まずはデータをとりNPSと業績の相関を示す
ことで、社内での納得感がでてきた
— 次に、導入を始めてからまず始めたことはなんでしょうか?
北山)まずはデータをとることから始めました。細かいことを説明するよりも、まず数字を取って結果を見せたほうが早いということもありましたので、導入の結果を見せることにフォーカスをして、それに合わせてシステムを変えたりフィードバックを即時に出来るような仕組みを作ったりしました。
— NPS導入後の効果を実感するまではどのくらいかかったんですか?
北山)まず1年間、個人別のNPS、店舗のNPS、そして会社全体のNPSをそれぞれ試行的に取りまして、そのデータを貯めて分析をしました。その分析結果を見せて業績との相関などを示すことによって、一気に社内での理解が深まるとともに皆さんの納得感が出てきました。
— 販売員のNPS、店舗のNPS、企業全体のNPS、それぞれに効果を感じるスピード感は違ったのでしょうか?
北山)一番ばらつきがあったのはやはり個人のNPSでして、NPSは100からマイナス100まで最大200差がありますけども、一番高い人は80くらい、悪い人はやはりマイナスになっているということでかなり差が出ていました。店舗についてはそこまでの差はなくて、10から20くらいの間でした。会社については毎月測定していましたけども、あまり変化がなく大体一定の数字をだいたい保っているというのが現状でした。
— 販売員の方や店舗に対して北山さんご自身がアドバイスすることはあったんですか?
北山)間にそれぞれの地域の統括の部門があったため、直接的にということはあまり多くはなかったのですが、お声がけをいただいてお話をする機会があった際には具体的なアドバイスをしました。ただ、基本的には資料を作ってそれを見せる、それから社内的なイントラに色々な情報をアップすることが中心でした。
2.2 導入から1年半~2年で
正式な評価指標として会社がNPSを採用
— NPSが定着したなと感じるまではどのくらいかかったのでしょうか?
北山)テスト導入をして1年間データを取って、更に議論をして、その翌年の年度から正式な指標として会社が採用することになったので、実質1年半かかりました。導入してKPIとして正式に評価指標として使うのに2年かかりました。その時点になると、さすがにどの社員も一様にNPSという言葉を日常会話として使うようになりました。そういうことを現場の販売員の方が話している声を聞いた時には定着したなと実感しました。
望月)よくある話なのですが、NPSを評価指標とすると意図的にお客さんに対して「いい点数をつけてくれ」というような話はよく聞くんですけども、そういったことはなかったんですか?
北山)あるかないかっていったら、なくはないと思いますけれども、逆にお客様との密着感がないとそういうことを勧めることすらできないですし、評価があまり良くない販売員がお客様にそういうことをしたらかえってマイナスになりますので、怖くてそんなこと言えないんですね。ですから、それを言えるくらいお客様に密着をして心をつかんでいるんだなという風に解釈しておりました。あまり良いことではないですけども、それも一つかなという風に思っていました。
2.3 アンケートの回収率を上げる目標を置くことでデータが集まりNPSも向上
— 実施されていたお客様アンケートの回答率はどのくらいだったのでしょうか?
北山)大体2割~3割くらいあったかなと思いますね。最初は、KPIであるNPSの点数を目標にするのではなく、アンケートの回収枚数の比率を目標に置いて、お申込みいただいた旅行数を分母として何件のアンケートをいただくかを追いかけていました。そのことによってだんだん定着したりデータも集まってきました。たぶん今は3割を越してるのではないかなと思いますね。
— 回答枚数を上げるという目標を置くことでNPSの数値が上がるという効果は見られるんですか?
北山)NPSに限らず、一般的なお客様アンケートの場合、回答枚数が多ければ多いほどNPSの点数が上がってくる傾向があります。評価を悪くつける方はどんな企業、どんな場合でも一定数います。良い評価していただけるお客様はあえてアンケートを書かない方が結構いらっしゃいますので、回収枚数を増やすこと=結果として良い評価が多く集まり、全体結果として点数が高くなるという傾向があります。
2.4 悪い評価をつけたお客様には
すぐに担当者が連絡するフローをつくった
— 推奨度が低かったお客様に対してアフターフォローは行っていたんですか?
北山)はい。悪い評価が出た場合には、すぐにメールで該当の店舗に通知が飛ぶシステムを作りまして、店舗においては必ずアンケートをチェックをする係を決めていました。シフト制でその日の担当を決めて、悪い評価をいただいた場合には、担当者やマネージャーからすぐに連絡をするというフローを徹底しましたので、比較的早いフォローができたと思います。
望月)その個別のフォロー以外にも、改善点をお客様にフィードバックすることはされていたんですか?
北山)そうですね。毎月改善点をいっぱいアップしている企業は最近ありますけれども、改善した事項がそこまで大きな内容じゃないものが多かったので、そこまでは出来てなかったですね。
03:NPS調査結果を多方面で
3.1 会社としてはNPSがベースの経営に切り替わり、
個人的には実践したことが体に染みついたので良かった
— NPSを導入された後で、NPSを導入してよかったなと思う結果はありましたか?
北山)会社としては、もともとCSをあまり意識しない方が多かったんですが、NPSは業績と直結をするということが理解されましたので、NPSをベースに経営をやっていこうという流れに変わってきましたね。特に店舗の評価は完全にNPSに切り替わりましたので、定着して良かったなと感じますし、個人的にも今NPSを推進するような立場になって、実践して結果が出たことが体の中に染みついてる部分もありますので、その辺は非常に良かったなと思っています。
—振り返ってみて、ここが失敗したなとか、こうすればもっと円滑に進んだなと思うことはありますか?
北山)導入・正式決定するまでに非常に時間がかかったり、システムを組み替えるのに時間がかかったりしましたので、そこはもう少しやり方があったのかなと。紙とウェブの両方を同時に稼働させることにこだわってしまったので、紙を使ったアンケートを先行させたらもう少し早く結果が出てスムーズに進んだのかなと今は思っています。ですので、そのあと移った会社ではその反省を踏まえて早めに導入できるような方法などを考えながらやっていました。
— 元の会社をご覧になって、さらに取り組むべきだと感じていることはありますか?
北山)今観光業界が非常に厳しい中、お客様に向き合って真摯に改善をしていけば必ずお客様が付いてくることは肌身をもって感じましたので、その気持ちだけは忘れずにこれからも続けていってほしいなと思っています。
3.2 NPSのようにバラつきも少なく定量的なデータとして
明らかに効果を証明できる指標はなかなかない
— NPSに関わられてきた身として感じるNPSの良さって何でしょうか?
北山)CSや顧客体験について抽象的な概念で語ることはいくらでも出来るのですが、NPSのように定量的なデータとしてきっちりと出て、その効果が誰が見ても明らかに証明できる指標はなかなか無いので、そこが一番いいところだと思っています。
望月)我々も同時期に10個のホテルで何か月かに渡ってNPSを計測したんですけれども、面白いなと思うのが、毎日違うお客さんが来てアンケートを取って、月別にNPSのスコアを見ていくんですけども、そこの評価数値がほとんどブレないんですよね。例えば、NPSが平均で20くらいのホテルがあったとしたら、改善して効果が出るまである程度の期間が必要なんですが、スコアを毎月見ていくとやはり20くらいのスコアで落ち着きますし、お客様が違っても毎月その数値が変わらないというところで、やはりその数値はある程度信憑性があるのかなと非常に実感しましたね。
北山)そうですね、ある程度の数が集まればあまりブレないのかなと思います。ホテルや旅行会社のように次に利用するまでのスパンが長い業界というのは、効果が数字として表れるのにどうしても半年~1年かかるのですが、お客様の利用頻度が高いような業界ならば効果のスピードはもっと早く出てきます。バラつきがあまり出ないことは実感していますし、どのホテルでも同じような結果が出るということはやはりNPSという指標自体の正しさであったり評価をしてもいいことの表れかなと思っています。
3.3 お客様のコメントをより早く読み解いて改善につなげる
ためにテキストマイニング機能を強化していきたい
— 最後に、NPSに関することでご自身がこれから取り組みたいことはありますか?
北山)NPSはあくまでもデータですので、それを使って改善活動しないと顧客体験は向上しないのですけれども、そのためにはお客様のコメントが一番重要なんですね。そのコメントをいかに早く読み解いて、お客様のご要望をもとに改善のためのアクションを起こせるか、そこがカギだと思っています。ですので、コメントをより読み取れるようにテキストマイニングの機能を強化した方がいいのではないかと思っていますので、そこに力を入れていきたいなと思っています。
— eNPS(従業員ロイヤルティ)に関してはいかがですか?
北山)実際にお客様満足度を上げるために取り組んでいる従業員が満足をしていないと、お客様に対して向き合うことがなかなか難しくなりますので、そういう面で顧客満足度とは裏表だと思っています。eNPSについてはまだ日本では導入事例が少ないので、今後はeNPSについても力を入れていくべきかなと思っています。ですので、これからもう少し事例を増やしていくために努力をしていきたいなと思っています。
04:ホテルでのNPS導入事例
4.1 数千枚の紙アンケートを一枚ずつデータ化し、
従業員からヒアリングを行うことで課題が浮き彫りに
— 大手旅行会社を退職後、転職されたリゾートホテルではどのようにNPSに取り組まれていたのでしょうか?
北山)CSとCRMの担当の管掌役員になり、CSがメインの業務になりました。過去からとっていた紙の顧客満足度アンケートが数千枚ありまして、最初にそれを一枚一枚すべて読み込んでデータ化しました。回答からどういう傾向があるか、何が課題かを抽出することから始めました。それと同時に、現場のスタッフにもヒアリングをして、社員が感じている課題とお客様のご意見が合っているかを確認することに半年くらいかかりました。従業員の話だけを聞いていると都合の悪いことが聞こえてこないんですね。一方でお客様は、従業員の努力が見えずに不満を抱えているパターンが結構ありました。お客様に対して一生懸命やっていることをお客様に見えるようにすることも実は重要なので、実際その辺を突合せしたことによって、何が課題かっていうのが浮き彫りになってきました。
— 従業員の方たちとはどのくらいの頻度で、どのようにコミュニケーションをとっていたのでしょうか?
北山)私が勤めたホテルは沖縄県だったんですが、私自身勤務が東京でしたので、毎月1週間ほど出張をして、現場のスタッフたちと実際に膝を突き合わせて話す機会を持ちました。当時そのホテルが8つほどありましたので、その時によって実際に泊まるホテルを変えて、レストランでも実際に食べて、自分自身もお客様の立場で実際に感じるということをしました。社員に対してはそういう風に泊まっているときや食事をするときに何気なく話をします。一応私は役員でしたが普段現地にいないため顔をあまり知られていないので、いわゆるミステリーショッパーに近い感じで、私が一般客のフリをして質問すると普通のお客様と同じように答えてくれるスタッフも多かったものですから、それで実態が把握できたこともありました。
4.2滞在中にタブレットでアンケートに回答してもらい
帰る前に問題解決できるようにオペレーションを変更
— 北山さんが入社されてからアンケートのやり方を過去と変えられたんですか?
北山)アンケートをデータ化する=ウェブで答えていただくということになりますので、元々ホテルで導入していたタブレットがあったんですけれども、そのタブレットにアンケートのシステムを入れまして、お客様がホテル滞在中に答えていただくという仕組みに変えました。そこが多分、仕組みとして大きく変えた一番のポイントかなと思います。滞在中の回答結果はリアルタイムで見られるようにしました。
望月)滞在中にもし何かクレームがあれば、すぐにフォローができる体制だったんですか?
北山)まさにその通りです。お客様からアンケートでコメントをいただいた場合は即時、担当のメールに通知が行きますので、その通知を見てチェックをしていました。特に改善要望やクレームがありましたら、スタッフがお客様の所に直接行くか電話をするかどちらかをするのですが、夜などはご迷惑でしょうから、チェックアウト前に印をつけておいて、フロントにお越しいただいた際にマネージャー役職の者がお詫びなり事情を聴くようにオペレーションを変えました。そのことによって、お客様が自宅に帰る前に何とか解決することを徹底しました。
— CRMのご担当だったということで、アンケートのデータは顧客と紐づいて管理されていたんですか?
北山)システム上そういう風にしたかったんですけれども、データをぶつけて少し分析したりはしていましたけれど、システムまでは改修はできなかったというのが正直なところですね。そこが課題でしたね。
— 当時そのホテルではテキストマイニングは活用されていたんですか?
北山)無料のツールは多少使っていたのですが、テキストマイニングは無料のツールだとレベルがあまり高くない大雑把なものしかないので、どちらかというと実際に自分の目で見てまとめることが多かったです。
4.3 毎月従業員を表彰する制度やバックエンドの業務改善を
行うことでモチベーションアップに
— アンケート回答の中に「○○さんの対応が良かった」というようなコメントがあるかと思うのですが、それによって従業員の方達のモチベーションが上がることはあったんでしょうか?
北山)そうですね。CSに関わらず良いことをした場合やお客様からお褒めの言葉があったときには社内で推薦する制度がありまして、毎月MVPを決めて、ちょっとした賞品を差し上げて表彰していました。3ヶ月に1回、さらにまた3ヶ月の中で表彰された中から選んだりしていて、少しでもスタッフのモチベーションアップに繋がるようなことをやっていましたね。
望月)それをすることで従業員が顧客志向になってくるという変化は感じられたんですか?
北山)やはり、“こういうことをすれば褒められるんだな、表彰されるんだな”ということが具体的に伝わりますので、そういう面では効果があったかなと思います。みんなお客様のためにやってあげたい気持ちは持っているのですが、なかなかできないようなバックエンドでの業務があります。モチベーションアップ以上に、バックエンドの業務改善をすることでお客様に向き合うことができるようになりました。それによって従業員の満足度も上がってきますし、会社として従業員に対して大切に接しているんだという姿勢を見せるところが大きくて、そこが良かった気がしますね。
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